橘ひなのが公開した『KING』カバーは、約2分15秒という短い尺の中で、声の押し出しと動画全体のまとまりを一気に見せるタイプの一本だった。説明欄には、イラストをがわこ、MIX をイケベタクロウ、ムービーをあげはが担当したと書かれていて、歌だけでなくビジュアル面まで含めてきれいに作り込まれていることが最初から分かる。

『KING』は圧の強い曲だが、このカバーはその攻めた空気をただなぞるのではなく、橘ひなのの声の輪郭で押し返している。勢いだけに寄り切らず、短い中でも音の立ち上がりがはっきりしているので、ぶいすぽっ!のゲーム配信で見る印象とは少し違う、歌動画としての強さが見えやすかった。

2分強で前に出る声の押し出し

このカバーでまず目立つのは、短い尺でも熱量を落とさないことだ。『KING』は最初から最後まで緊張感を切らしにくい曲だが、橘ひなのはそこで力みすぎず、前へ出る声を保ったまま走り切っている。勢いだけが先に立つ感じではなく、歌としてちゃんとまとまっているので、繰り返し流しても疲れにくい。

特に良いのは、強さを見せる場面でも音がつぶれきらないところだ。高い圧をかける曲ほど、聴き手には「強いけれど耳に残るか」が大事になるが、この動画はそこが崩れていない。前へ出る歌い方と、最後まで聴き切れる抜けの良さが同居しているので、短いカバーでも印象が残りやすい。

イラスト・ミックス・ムービー込みで一本にまとまっている

説明欄で制作陣が明示されているおかげで、動画の見え方もかなり整理しやすい。イラスト、ミックス、ムービーの担当が分かれているからこそ、歌だけでなく、画面の空気と音の処理まで含めて「作品として仕上げた動画」だと受け取りやすい。歌ってみた動画として当たり前のようでいて、この親切さはやはり効く。

こういう強い曲では、絵や動画のテンションが歌とずれると印象がちぐはぐになりやすい。その点、このカバーは視覚側も音側も曲の圧と足並みを揃えていて、一本の勢いが途切れない。短い時間でまとまりを出せているのは、歌唱だけでなくパッケージ全体の設計が効いているからだと感じた。

ゲーム配信の印象とは少し違う顔が見える

橘ひなのは、普段はゲーム配信や大会まわりで名前を見る機会が多い分、こうした歌動画では別の見え方が生まれる。配信での軽快さとは少し違って、曲に合わせて押し出しを強くした時の声の表情が前に出るので、「歌う時の橘ひなの」を短時間でつかみやすい。

ぶいすぽっ!の音楽系コンテンツを追う時にも、この動画はかなり入口になりやすい。歌唱、ビジュアル、動画のまとまりが短い尺にきちんと収まっているので、まず一本見て雰囲気をつかむにはちょうどいい。勢いで押し切るだけではなく、作品として整えてあるのが、このカバーのいちばん良いところだった。